日本の半導体人材育成施策―九州編(TSMC/JASMを中心に)

日本の半導体人材育成施策―九州編(TSMC/JASMを中心に) 業界・企業

数字から見る危機感

数字から見る危機感

九州経済産業局の推計では、九州の半導体産業だけで年間1000人規模の人材不足が今後10年続くとされています。全国で見ると、これから10年でおよそ4万人分の半導体人材が不足する見込みだそうです。

私自身、セラミック基板の製造現場で品質改善の仕事をしていると、「人手が足りない」という声を耳にすることがよくあります。設備投資や技術の話題は目立ちやすい一方で、そこで働く人をどう育てていくかという話は、意外と知られていないように感じます。

では、この人手不足に、日本はどう向き合おうとしているのでしょうか。今回は、TSMCの日本工場(JASM)が熊本にやってきたことをきっかけに、人材育成の取り組みが具体的に進んでいる九州の様子をご紹介します。

国としての大きな枠組み

少しだけ前置きをすると、経済産業省は2021年に「半導体・デジタル産業戦略」という方針をまとめ、2023年6月に改訂しました。その後も検討か木々で見直しの議論が続いていて、2026年6月には第16回の会議が開かれています。

アメリカのCHIPS法、ヨーロッパのEUChipsAct、中国の大型補助金など、世界各地が国をあげて半導体の人材や生産基盤を育てようとするなかで、日本でも半導体産業を支える取り組みは、一時的なものではなく長く続く国の方針として根づきつつあります。

こうした大きな方針のもとで、実際に人を育てる現場を担っているのが、各地域に生まれた産学官連携のコンソーシアムです。九州は、そのなかでも特に早くから具体的な取り組みが進んできた地域のひとつです。

九州の人材育成:TSMC/JASMを中心に

コンソーシアムの立ち上げ

コンソーシアムの立ち上げ

九州経済産業局が中心となって、2022年3月29日に「九州半導体人材育成等コンソーシアム」が設立されました。

設立時は42機関でしたが、2025年3月時点では、TSMCの子会社であるJASMをはじめ、九州大学などの教育機関、自治体、金融機関まで、計148組織が参画しています。

目的は、半導体人材の育成・確保と、サプライチェーンの強靱化などを、九州から進めることです。

大学レベルでの連携:九州大学とTSMC

2024年4月1日付で、九州大学はTSMCと、半導体の研究や人材育成での協力を目的とした包括的な連携の覚書を結びました。

TSMCやJASMの技術者が大学院で講義を行い、その授業は九州域内の8大学にもオンラインで公開されました。学部3年生以上を対象に、TSMC台湾本社での夏期インターンシップも用意されています。企業が大学教育に直接関わる形の連携が始まっています。

九州大学の金谷晴一教授は、TSMCが手がける先端半導体の技術は国内にほとんど蓄積がなく、教えられる人材自体が不足していると指摘しています。

日本ではこの分野を学べる機会そのものが長い間少なかったという背景を考えると、この連携がどれだけ大きな一歩なのか、伝わってくる気がします。

高専の即戦力化

高専の即戦力化

個人的に、いちばん温かい気持ちになったのが、高専(高等専門学校)出身の方たちの評価のされ方です。

JASMの人事責任者の池山一誠氏は、高専出身の社員をとても高く評価しています。理由は、すでに「工場の手触り」を知っていること。座学だけでなく実習を通じて現場の感覚を身につけてきた高専生が、頼れる存在として迎え入れられているのです。

その評価は、待遇にもちゃんと表れています。熊本県内のメーカーに高専生が就職した場合、初任給は20万円前後が多いなか、JASMはエンジニア職の初任給を当初28万円に設定しました。

単純計算で、県内の相場より最大4割高い水準です。大卒と高専卒で職務内容に差を設けていない点も、高専の先生から好意的に受け止められているそうです。

現場で手を動かせる力が、これほどしっかりと評価される。これは、学歴の高さよりも「現場で活かせる実務スキル」が大切にされる土壌が、この業界には確かにあるということだと思います。

未経験からのキャリアチェンジを考えている方にとっても、ちょっと励みになる話ではないでしょうか。

高校まで広がる裾野

高校まで広がる裾野

人材育成の広がりは、大学や高専だけにとどまりません。熊本市の開新高校は、2025年4月に電気情報科の中に「半導体情報コース」を新設し、2026年4月からは工業科・半導体工学科として改組します。

カリキュラム作成や教職員研修で協力する東海大学、台湾・新竹にある明新科技大学、大津町に半導体製造装置を備えた研修施設を持つワールドインテックの3者と連携しており、卒業後にどう進学・就職していくかまで、段階を踏んでしっかり見えるようにする工夫がされています。

中学生の段階から、半導体業界に進む道すじが具体的に見えてくる。これは、九州という地域全体で、人を育てる仕組みが少しずつ形になってきている証だと感じます。

まとめ

まとめ

九州の人材育成を一言でまとめるなら、「TSMCという海外企業からの即戦力ニーズに応える形で、高専・大学・高校がぐっと連携を強めた」ということだと思います。

国が方向性を示し、地域のコンソーシアムがそれを具体的な教育や採用の仕組みに落とし込んでいく。この二層構造こそが、いまの日本の半導体人材育成のかたちなのだと感じます。

未経験からのキャリアチェンジを考えている方にとっても、これは決して遠い世界の話ではありません。高専や地域のリスキリングの仕組みを通じて、半導体業界への入り口は、少しずつ、でも確かに広がってきています。

次回は、ラピダスの進出をきっかけに人材育成が進む北海道の様子をお届けする予定です。九州とはまた違ったアプローチで人を育てている姿を、あわせて見ていければと思います。

北海道で半導体人材が2割不足。九州とは違う道を歩む「北海道バレー構想」の現在地

参考資料

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