はじめに
半導体業界に入る前は、不良改善って専門的な材料工学とか難しい化学の知識が絶対必要だと思ってました。でも実際に工程開発とか歩留まり改善の現場に入ってみて驚いたのは、不良の原因を予測するのに本当に必要だったのは、そういう専門知識じゃなくて、高校化学レベルの反応の理解だったってことです。
酸化・還元、拡散、相変化。言葉だけ聞くと身構えちゃいますが、要は「なんでこの現象が起きたんだろう」を考えるためのシンプルな道具でしかありません。この記事では、私がセラミック基板の工程で経験した2つの出来事をもとに、高校化学の知識がどう予測の武器になったのかを紹介します。
未経験からこの業界を目指す方には、そこまで難しい専門知識がなくても考え方次第でやっていけるという安心材料に。すでに現場にいるエンジニアの方には、日々の異常観察を一段と深く読み解くヒントになれば嬉しいです。
なぜ不良改善に高校化学が効くのか

現場で気づいた、知識より反応の理解の大切さ
不良改善の現場でまず求められるのは、この不良はなぜ起きたのかという仮説を立てる力です。この仮説を立てるとき、専門書に載ってるような高度な知識よりも、これはたぶん酸化反応っぽいな、これは拡散が関係してそうだな、といった反応のパターンを知っていることのほうが役立ちます。
パターンさえ分かっていれば、あとは目の前の現象(温度、雰囲気、材料の組み合わせ)に当てはめて考えるだけで、原因の見当がつくようになります。逆に専門用語や難しい理論を知っていても、この当てはめる発想がないと、なかなか原因にたどり着けません。
高校化学の反応パターンが予測の武器になる理由
高校化学で習う反応パターンには、こんなものがあります。
- 酸化・還元:物質が酸素や電子をやり取りする反応
- 拡散:濃度や温度の差で物質が移動する現象
- 相変化:固体・液体・気体の状態が変わる現象
- 化合物同士の反応:違う化合物がくっついて新しい物質ができる反応
どれも、半導体製造プロセス、特に高温で焼く工程では日常的に起きている現象です。つまり高校化学の知識は特別な理論というより、現場で起きていることを言葉にするための道具だと思うと、ぐっと身近に感じられるはずです。
以下、セラミック基板の工程で経験した2つの事例を通して、この考え方を具体的に見ていきます。
事例1 – 基板と似た成分を加えたら密着強度が上がった話

配合を見直した背景
基板の上に導体パターンを作るときは、ペースト(金属粉末などを含む材料)を基板に塗って焼き付けます。このとき課題になりやすいのが、基板とペースト層の密着強度です。
そこで、ペーストに基板と似た成分を加えてみたところ、密着強度がはっきり上がるという結果になりました。
密着強度が上がった理由を高校化学で考える
なぜ強度が上がったのか。ここで役に立ったのが、「似たもの同士はなじみやすい」という高校化学の基本的な感覚です。
拡散のしやすさ
焼いている間、基板とペーストの境目では原子レベルの移動、つまり拡散が起きています。性質の違う材料同士だとこの移動に差が出て、境目に隙間が残りやすくなります。似た成分が入っていると移動がスムーズに進み、境目がつながりやすくなると考えられます。
濡れやすさ
水と油がはじき合い、水と水はなじむのと同じで、性質の近いもの同士は表面で広がりやすくなります。ペーストが基板の上でよく広がれば、接触面積が増えて密着も強くなります。
このように、「似た成分を足したら密着が良くなった」という結果は、拡散と濡れという2つの基本的な現象で説明がつきました。
事例2 – 配合比率を変えたら想定外の異物が出てきた話
配合比率を変えたときに起きた現象
同じくセラミック基板の工程で、ペーストに含まれる金属成分の比率を増やして焼いてみたところ、製品として意図しない異物が増えるという現象が起きました。
異物の正体は、基板に元々ある成分との化合物だった
異物の成分を分析してみると、ペーストには入れていないはずの成分を含む化合物だと分かりました。この結果を見たときは、正直「これ本当にできるのかな」と半信半疑でした。
でも化学的に整理してみると、十分に理にかなった結果でした。セラミック基板には、緻密に焼き固めるための添加成分が元々含まれています。異物は、この添加成分が関わってできたものだったのです。
高校化学で考える、2段階の反応
配合比率を変えたことで起きたのは、単純な1つの反応ではなく、次のような2段階の反応だと考えられます。
ステップ1:守り役の成分が減って、基板の表面が酸化する
金属成分の比率を上げると、そのぶんペースト中のほかの成分の割合が下がります。その中には、基板の表面を覆って周囲の雰囲気から守る役割の成分もありました。守り役が減ると基板の表面が酸素にさらされやすくなり、酸化反応が進んで酸化物ができます。
ステップ2:できた酸化物が、基板の添加成分と反応する
ここでできた酸化物が、基板に元々含まれていた添加成分と反応して、新しい化合物ができます。これが異物の正体でした。高校化学でいう酸化反応に加えて、化合物同士が反応して別の物質ができるところまで含んだ現象です。
つまり「金属成分の比率を上げる」という一見単純な条件変更が、守り役が減る → 酸化する → 元々ある成分と反応する、という連鎖を引き起こし、最終的に異物として現れていたわけです。
2つの事例から見える共通の考え方
現象 → 仮説 → 検証、という流れ
この2つの事例に共通しているのは、次のような流れです。
- 現象を観察する(密着強度が上がった、想定外の異物が増えた)
- 関係していそうな化学反応を仮説として立てる(拡散・濡れやすさ、酸化・化合物同士の反応)
- 観察や分析の結果で確かめる

このプロセスで大事なのは、専門的な理論よりも先に「この現象はどのパターンに当てはまりそうか」と考える発想です。この発想の引き出しを増やしてくれたのが、高校化学で習う基本的な反応の知識でした。
専門用語より、反応パターンを知っていることの価値
もちろん、専門用語や高度な理論を知っていることも役に立ちます。でも、不良の原因を予測するという最初の一歩では、専門用語よりも「これは酸化っぽいな」「拡散が関係していそうだな」という直感的な引っかかりのほうが大事でした。
この引っかかりがあって初めて、何をどう調べるかの方向性が定まります。詳しい知識は、方向が決まってから調べれば間に合います。
エンジニアが現場で化学的な視点を鍛える方法

日々の異常観察で意識するといいポイント
現場で異常や不良に出会ったとき、次の4つの視点で見てみると、化学的な仮説が立てやすくなります。
- 温度:反応が進みやすい温度域か、進みにくい温度域か
- 雰囲気:酸素や水分があるかどうか、どんなガスの中か
- 材料の組み合わせ:似た材料同士か、違う材料同士か
- 時間:反応が進むのに十分な時間があったか
今回の2つの事例も、この視点で整理できます。事例1は「材料の組み合わせ」、事例2は「雰囲気」と「材料の組み合わせ」が手がかりになりました。
高校化学の復習が実務にどうつながるか
今さら高校化学を復習するのは気が引ける、と感じる方もいるかもしれません。でも、実務で出会う現象の多くは、酸化・還元、拡散、相変化といった基本的な反応の理解で説明の糸口がつかめます。
教科書を最初から読み直す必要はありません。「この現象はどの反応パターンに当てはまりそうか」と意識するだけでも、現場での見え方が変わってきます。
まとめ 化学の基礎知識が不良予測力を伸ばす

セラミック基板の2つの事例を通して紹介したように、不良改善で本当に役立ったのは、専門的で難しい知識ではなく、高校化学で習う基本的な反応パターンの理解でした。
- 基板と似た成分を加えたら密着強度が上がった → 拡散、濡れやすさ
- 配合比率を変えたら想定外の異物が出てきた → 酸化反応と、化合物同士の反応の2段階
未経験からこの業界を目指す方には、専門知識ゼロからのスタートでも、基礎的な化学の考え方があれば十分やっていけるという安心材料に。すでに現場にいるエンジニアの方には、日々の観察をもう一段深く読み解くきっかけになれば幸いです。
不良の原因は、意外と身近な化学反応の中に隠れています。次に不良に出会ったときは、「これはどんな反応パターンに当てはまりそうかな」と、ちょっと考えてみてください。


コメント