北海道で半導体人材が2割不足。九州とは違う道を歩む「北海道バレー構想」の現在地

北海道で半導体人材が2割不足。九州とは違う道を歩む「北海道バレー構想」の現在地 業界・企業

前回は、TSMCの熊本進出(JASM)をきっかけに人材育成が加速する九州の様子をお届けしました。九州経済産業局のコンソーシアムを中心に、大学・高専・高校までがぐっとつながっていく姿は、見ていてとても勢いを感じるものでした。

今回はその続きとして、ラピダスの進出をきっかけに動き出した北海道の様子をご紹介します。

北海道は、半導体人材がすでに2割足りない

北海道は、半導体人材がすでに2割足りない

北海道では、半導体人材がすでに2割ほど足りていないと報じられています。しかも九州と違い、北海道にはもともと半導体関連の企業がほとんどありませんでした。旭川高専の資料によると、九州にはすでに1,000社近い半導体関連企業が集まっているのに対し、北海道は半導体産業が乏しく、人材も多くありませんでした。

九州が「すでにある産業に、教育のスピードを合わせていく」という形だったのに対し、北海道は「産業そのものを、ゼロから育てていく」という、また違う難しさに向き合っていることになります。

私自身、セラミック基板の製造現場で品質改善の仕事をしています。九州編でも書いた通り、「人手が足りない」という声は日常的に耳にします。

設備投資の話は目立ちやすい一方で、そこで働く人をどう育てるかという話は、地域によって進み方がかなり違うようです。今回は、その北海道の今を、具体的な取り組みをもとに紹介していきます。

北海道の人材育成:ラピダスを中心に

構想の始まり

構想の始まり

ラピダスは2022年8月に設立され、同年10月にキオクシアやソニーグループ、トヨタ自動車など国内大手8社が出資しました。アメリカのIBMやベルギーの研究機関imecと協力しながら、2ナノメートルという、かなり微細な最先端ロジック半導体の量産を目指しています。その拠点として選ばれたのが、北海道の千歳市でした。

この進出をきっかけに、北海道経済連合会や北洋銀行、北海道大学など36の組織が協議会を立ち上げ、「北海道バレー構想」を進めています。半導体関連企業を集めることで、2050年までに関連の生産額3兆円を目指すという、かなり長い目線のビジョンです。

北海道庁も2024年3月に「北海道半導体・デジタル関連産業振興ビジョン」をつくり(2026年3月に改訂)、当初の計画では2024年度から2033年度までの10年間のうち、最初の5年間を特に力を入れる期間としています。

大学レベルでの連携:北海道大学・千歳科学技術大学

大学レベルでの連携:北海道大学・千歳科学技術大学

北海道大学は2026年7月、実習用のクリーンルームを備えた「半導体プロトタイピングラボ」を実際に開所しました。国際規格ISOクラス5・7に適合したクリーンルームで、設計から前工程・後工程・評価まで一通り体験できる場になっています。

自分の大学の学生だけでなく、道内の他大学や高専、企業にもすでに開放されています。ここに至るまでにも、電気電子工学を学ぶ学生がミツミ電機の千歳事業所を訪れるような実習が始まっていました。

この「半導体プロトタイピングラボ」を含む取り組みは、北海道・札幌市・千歳市・北海道大学・公立千歳科学技術大学が共同で申請した事業として、内閣府の地方大学・地域産業創生交付金にも採択されています。

令和7年度から15年度までの9年間のうち、最初の5年間はこの交付金を活用しながら、学部から大学院まで一貫した半導体教育の体制を作っていく計画です。ラボで作った教育プログラムは、道内の他大学や高専にも提供していく方針で、1つの大学だけで抱え込むのではなく、北海道全体に広げていく設計になっています。

公立千歳科学技術大学の動きも早く、2024年4月には半導体人材育成のための「シリコンリサーチセンター」を学内に開きました。同じ年の5月には北海道情報大学とも連携協定を結んでいます。

高専まで広がる裾野

高専まで広がる裾野

九州編で、高専出身の方がJASMから即戦力としてとても高く評価されているという話を書きましたが、北海道でも高専を中心にした動きが早くから進んでいます。

旭川高専は2023年10月、道内の高専の中で最も早く「半導体概論」という選択科目を新設しました。

全4学科の4・5年生が受けられる授業で、旭川高専の先生だけでなく、道内外の

企業技術者も講師を務めています。半導体の基礎となる物理や化学から、デバイスの仕組み、実際の製造工程までを一通り学べる内容です。

この流れは、2024年に道内全体へと広がりました。旭川・釧路・函館・苫小牧の道内4つの高専が「北海道地区4高専半導体人材育成連携推進室」をつくり、同年6月には1〜3年生向けの共通授業「北海道半導体みらい論」を一緒に始めました。

4校の機械系・電気電子系・情報制御系・化学系・社会基盤系の先生たちが、持ち回りで授業を担当します。経済産業省北海道経済産業局も協力する、かなり本格的な取り組みです。初回の授業には、4校合わせて350人を超える学生が参加しました。

旭川高専の副校長は、推薦入試の面接で「半導体の勉強をしたい」と話す受験生が増えていると話しています。ラピダスが来る前は、まず聞かなかった言葉だそうです。実際に、最先端半導体の量産を目指すラピダスに就職した卒業生もすでにいます。

中学・高校で進路を選ぶ段階にまで、半導体という選択肢が届き始めているのを感じます。

未経験からでも、入り口はある

未経験からでも、入り口はある

ラピダス自体の採用を見ると、製造ラインに必要な装置関連の仕事や、生産管理・生産技術・設備管理といった職種が千歳での勤務として募集されています。年収の幅は職種によって違いますが、地方の製造業としては決して低くない水準だという印象です。

未経験者をはじめから断る求人ばかりではなく、経験者歓迎としつつも「U・Iターン歓迎」という表記が目立つのも特徴で、道外からの転職者を前向きに迎え入れようとする姿勢が伝わってきます。

自分が未経験でこの業界に入ったときを振り返ると、一番の壁は「経験者歓迎」という一文にどう向き合うかでした。でも実際には、新しくできたばかりの拠点であるほど、教育することを前提に採用枠を設けていることが多いです。

未経験の方が本当に困るのは、求人票の文言よりも「半導体はどうやって作られているのか」「それぞれの工程で何をしているのか」が、まったくイメージできないことではないかと思います。

文字や図だけで説明されても、なかなか自分ごとにはなりません。でも、実際にクリーンルームを見たり、装置が動く仕組みを知ったりすると、急に「これなら自分にもできそうだ」という実感が持てるようになります。

北海道大学の実習や、旭川高専の「半導体概論」のように、実物や仕組みに直接触れられる機会が増えているのは、そういう意味でもとても心強いことです。今後は、こうした地域の教育プログラムを受けてから応募する、というルートも現実的な選択肢になってくるはずです。

現場から見えてきた、気をつけたいところ

ここまで前向きな話を並べてきましたが、現場で働く身として一つ気になっている点があります。

こうした産官学の人材育成プログラムは、立ち上げのスピードが速い分、教える側の質にばらつきが出やすいという点です。自分も入社した直後、座学で教わった内容と、現場で実際に行われている工程管理のやり方に、少しギャップを感じたことがあります。

特に半導体のプロセスは、装置のメーカーやラインの世代によって、細かいやり方がかなり違います。大学や高専の実習で触れる設備が、実際に配属される現場とどれくらい近いかは、入る前に確認しておくと安心です。

もう一つは、人を育てるスピードと、現場の歩留まりが良くなるスピードが、必ずしも一致しないという点です。新しく人が入ってくること自体はうれしいことですが、教える側にコストがかかる時期は、どうしても現場の生産性が一時的に落ちます。

これは北海道に限った話ではなく、新しくできた拠点であればどこでも起きることです。未経験からこの業界を目指す方は、「最初の数ヶ月は、自分もチームの負担になる時期がある」というくらいに考えておくと、必要以上に自分を責めずに済むと思います。

まとめ

まとめ

九州は「すでにある産業の集積を背景に、TSMCという即戦力ニーズに、大学・高専・高校が連携して応えていく」という形でした。

それに対して北海道は、「集積がまだ乏しい土台の上に、ラピダスの進出をきっかけとして、産業と教育の両方を一から作っていく」という、また違う難しさに向き合っています。

それでも、旭川高専の「半導体概論」から始まり、道内4高専の共通授業、北海道大学や千歳科学技術大学の教育インフラの整備へと、裾野は確実に広がってきています。

未経験からのキャリアチェンジを考えている方にとっても、これは遠い世界の話ではありません。土台を作っている最中の地域だからこそ、今のうちに動き出せば、後から追いかけるよりも早く現場の中心に近づけるかもしれません。

参考資料

ラピダス・北海道バレー構想

北海道の施策・人材不足

大学の取り組み

高専の取り組み

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